観光庁「観光DX」成果報告会イベントレポート――実証事業成果報告

 デジタルとアナログの融合で、旅を、地域を、あたらしく――。デジタル技術の活用により、旅行者の利便性向上、そして観光地経営の高度化を図ることを目的に観光庁が進めている「観光DX推進プロジェクト」。令和4年度は計14の実証事業を採択し、新たな観光モデルの構築や観光地経営の改善に取り組んできました。

ここでは、2023年3月8日に実施された観光DX成果報告会「Next Tourism Summit 2023」で発表された、3つの実証事業成果報告の内容をレポートします。

 

■“まち全体が一つの温泉旅館”のDX化実現事業(豊岡観光DX推進協議会)

 「共存共栄」の考えのもと、“まち全体が一つの温泉旅館”というコンセプトで観光開発に取り組んできた城崎温泉。しかし、地域の観光事業者との話し合いで明らかになった喫緊の課題は、「エリア内に観光データが蓄積されていないこと」で一致したと豊岡観光DX推進協議会の一幡堅司氏は語ります。

 そこで今回の実証事業では、各宿泊施設のPMS(顧客予約管理システム)の統一を図り、データを可視化するマーケティングシステム「豊岡観光DX基盤」の活用によって、滞在価値の向上、周遊・リピートの促進に取り組みました。

その結果、KPIとして設定されていた来訪者のリピーター率39.4%に対し、結果は41.4%。同じく宿泊客1人1泊あたりの観光消費額が2万3,580円に対し、3万2,438円。顧客データ数は5,000件に対し8,393件と、複数の評価項目で高い成果が得られました。

「その反面、すべての現場で取組が完全に周知されていたとは言い難く、たとえば宿泊者の生年月日や年齢といった情報が採取できなかったことなど、データ収集の面で穴があったのも事実です。次年度以降はこうしたデータ収集の項目を改善することはもちろん、さらに詳細なデータ収集に努めてマーケティングの強化に臨みます」(一幡氏)

伝統ある城崎温泉が、さらに多くの観光客に愛され、より長く滞在してもらうエリアになるために、地域の取組は続きます。

■観光データ連携機能構築による観光事業者の収益向上に向けた実証事業(福井県観光DX推進コンソーシアム)

 2024年に北陸新幹線の福井・敦賀延伸開業を控え、人流の変化を見据えた観光開発が急務とされる福井県。そこで、「地域イベントの場でデータ収集を行い、得られた情報を基に“稼ぐ観光”を推進する」(福井県観光DX推進コンソーシアム・佐竹正範氏)というのが今回の実証事業の狙いです。

 具体的には、県内70箇所にQRコードを設置してアンケート調査を展開し、集まったアンケートデータをオープンデータ化。また、2022年10月7~9日に丹南エリア(鯖江市・越前市・越前町)で催された工房見学イベント「RENEW(リニュー)」に合わせデジタルクーポンを発行し決済情報を収集し、観光客の消費動向もオープンデータ化。これらオープンデータをもとに簡易的に分析できるアプリをシビックテックで開発。さらに県の公式サイト「ふくいドットコム」のアクセスデータや、主要観光地人流データなどと合わせて、福井県観光データ分析システム「FTAS(エフタス)」上で公開しました。

「福井県ではこれまで、観光事業者が戦略を立てようにも基になるデータが存在しなかったという致命的な弱点がありました。これを我々が収集し、GitHub(※プログラムやコードの共有プラットフォーム)を活用してオープンデータ化し、誰もが見られる形で公開したのが今回の取組のポイントになります。また、福井県の観光施設のデータベースもオープンデータ化しており、誰でも多言語で観光関連アプリを開発できる環境を整備しています」(佐竹氏)

 オープンデータは魅力的なコンテンツを開発するための重要な礎であると語る佐竹氏は、さらなるデータ活用を促すために、「勉強会の開催やコンサルティング企業との協業の仕組みづくりも同時に進めています」と語ります。ここで収集・共有されるデータには行政も注目しているそうで、来年度以降のより有用な取組の実現に繋がるでしょう。

■一極集中下の来場客を活用した地域経済活性化事業(スポーツイベントツーリズムコンソーシアム)

 スポーツイベントは人流誘導の起点となり、地域への周遊を促すことでエリア全体の活性化が図れます。そこで5つのスタジアムとその周辺地域と連携し、観光情報を戦略的に発信しようと取り組んだのが、スポーツイベントツーリズムコンソーシアムです。

 今回の実証事業では、“ユニ着て旅する”をコンセプトに、北海道札幌市・茨城県鹿嶋市・静岡県清水市・京都府亀岡市・福岡県福岡市の5地域を対象に周辺の観光情報を伝えるアプリ「ユニタビ」を開発。「Jリーグの試合日に合わせて地域の観光スポット、あるいは飲食店情報などを、経路検索機能やスタンプラリー企画と共に提供することで、ファンの皆さんの地域への周遊を促しました」と同コンソーシアムの大下本直人氏は語ります。

 「ユニタビ」の総ダウンロード数は4,368、スタンプラリーのチェックイン数は1,578回というのが今回実証期間の成果。合わせてユーザーからは地域内消費額調査に対する241の回答が得られ、今後の戦略立案のデータとして活用されます。

「ファンの皆さんには、サッカー観戦の日をより楽しく充実した1日にしていただき、地域にはコロナ禍以前の賑わいを取り戻すことを目標に取り組んで参りました。一定のデータが得られた今、今後はこれをいかに地域の売上げに繋げていくかが課題となります」(大下本氏)

 今後、アプリがさらに浸透すれば、得られるデータも増えていくはず。それは地域の「稼ぐ」力を育むための、貴重なマーケティングデータとなるでしょう。

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【観光DX成果報告会のアーカイブ動画】

 今回まとめた3つの実証事業成果報告を含む、観光DX成果報告会「Next Tourism Summit 2023」のアーカイブ動画は、観光DX公式YouTubeチャンネル(下記URL)よりご覧いただけます。